小児矯正とは
小児矯正とは、子供を対象とした矯正治療です。
成長途上にあるお子さんの歯並びや噛み合わせを、成長に合わせて最適な位置に導くという意味から咬合誘導ともよばれます。
大人の矯正治療と異なり成長発育を利用できるのが利点で、顎の骨格の大きさや形を理想的なものに整えることも可能です。
小児矯正の目的
小児矯正の目的は大人の矯正治療と異なり、歯列不正を治療することではありません。その目的は、歯列不正を予防することです。
現状を維持しつつ歯列不正の予防を目指すこともあれば、歯や顎の異常を早く発見し、積極的にこれらに関与して歯列不正を予防することもあります。
小児矯正の重要性
歯並びや噛み合わせをきれいに整えれば、虫歯や歯周病を防ぐだけでなく、食べ物をしっかり噛めるようになるため全身の健康にも有益です。適切な時期からの小児矯正は無理なく歯並びを整えられるうえ、全身の健康を保つ効果も期待できます。
このように小児矯正は、お子さんの歯やお口の健康にとってとても重要です。
主な小児の不正咬合と影響
不正咬合の影響は、見た目だけではありません。放置していると、いずれの不正咬合も顎骨の成長発育にも悪影響を与えます。
子供の頃は、不正咬合の原因が歯の傾きが悪いだけであったとしても、成長とともに原因が骨格自体の異常に変わっていくことがあるからです。
反対咬合
反対咬合は、上顎と下顎の前歯の噛み合わせが、連続して下顎の前歯の方が上顎の前歯より前に出ている噛み合わせです。
反対咬合では多くの場合で舌が下がっているため、サ行など発音が不明瞭になりやすいです。前歯で噛むことが難しいうえ、骨格性の反対咬合に発展すると、面長な顔つきになってしまいます。
開咬
開咬は上下の歯を噛み合わせた状態で、前から見た時に上下の前歯が触れ合っていない噛み合わせです。
開咬の状態では前歯で食べ物を噛むことができないので、奥歯にかかる負担が増します。また、空気が抜けて発音しにくくなる他、口呼吸になりやすい傾向も指摘されています。
上顎前突
上顎前突は上顎の前歯が下顎の前歯より前に出て、前歯同士が接触しない噛み合わせです。
上顎前突では上顎と下顎の前歯がきちんと噛み合わせられないため、前歯で食べるのが難しくなり、奥歯の負担が増します。口が閉じにくくなるため、口呼吸になりやすいだけでなく、発音も悪くなる可能性があります。
転んだときなど、前歯を打撲しやすくなるため、前歯が欠けたり折れたりするリスクが高まります。
切端咬合
切端咬合は上顎の前歯と下顎の前歯が、お互いの切端とよばれる先端部分で触れ合っている噛み合わせです。
切端咬合では上顎と下顎の前歯の切端が触れ合うので、前歯がすり減ったり、欠けたりしやすくなります。また、サ行やタ行の発音が不明瞭になることもあります。
過蓋咬合
過蓋咬合は、下顎の前歯の切端が上顎の前歯の裏側の歯肉に当たっている噛み合わせです。
過蓋咬合の噛み合わせはとても深くなっているので、顎関節に負担がかかり顎関節症を引き起こす可能性があります。また、下顎骨は関節部分を中心に成長していくので、下顎骨の成長発育にも悪影響を及ぼします。
交叉咬合
交叉咬合は上顎と下顎の歯を噛み合わせたときに、部分的に下顎の歯に対し上顎の歯が内側に位置する噛み合わせです。
交叉咬合では顎骨の左右の非対称化などのずれ、顔面の左右差などの歪みを起こす可能性があります。また、左右でバランスよく噛めないため、顎関節に負担がかかり、顎関節症のリスクを高めます。
叢生
叢生は歯の位置がアーチを描く一直線上に並ばず、凸凹としている歯並びです。
叢生を放置していると見た目が悪いだけでなく、歯磨きがしにくいため、虫歯や歯周病になる可能性が高まります。
小児矯正のメリット
小児矯正では顎の成長をコントロールし、永久歯の正しい萌出を促すことで、矯正治療の将来的な抜歯リスクや治療期間の短縮、虫歯・歯周病予防にも繋がります。
成長発育を利用できる
小児矯正の最大のメリットが、成長発育を利用できる点です。
歯の大きさには個人差がほとんどなく、ほぼ一定です。そして、歯の数は生まれつき決まっています。一方、顎の骨の大きさや形は成長発育によって変わります。
歯の大きさや数は変わらなくても顎の骨の大きさや形は変えられるので、小児矯正では顎の成長方向を導くことで、歯がきれいに並ぶようにすることができます。
症状によっては簡単な処置で済むこともある
成長発育中の部位で適切な時期なら、症状によっては大人のように矯正力なしで、もしくは矯正装置を使うことなく簡単な処置で、歯並びがきれいになることもあります。
抜歯の可能性を減らせる
大人の方が歯をきれいに並べようとしてもスペースが足りない場合、そのままでは歯並びはきれいにならないため、歯を抜いて歯を収めるスペースを確保します。
小児矯正なら顎の骨格の大きさや形を整えることで、抜歯せずに歯並びをきれいにできる可能性があります。
痛みが少ない
子どもの顎の骨は、大人と比べてやわらかいです。
歯を動かすと痛みを感じることがありますが、このときの痛みの強さは大人より子どもの方が少なくすみます。
慣れやすい
大人と比べると、子どもの方が矯正装置に慣れるのが早いです。
歯並びを悪くする癖を治せる
指しゃぶりや爪噛み、口呼吸など、歯並びを悪くさせかねない癖はいくつもあります。年齢とともに自然になくなることもありますが、成長しても残っている場合、これらの癖を治さなくてはなりません。
小児矯正では、歯並びが悪くなるのを予防するために、歯並びを悪くさせかねない癖の治療も行なっています。癖を無くすだけで、自然に歯並びがきれいになっていくお子さんもいるほど、歯並びに関係する癖はとても重要です。
鼻呼吸ができるようになる
ヒトの呼吸は口を閉じ、鼻でするものです。ところが、中には口で呼吸するお子さんがいらっしゃいます。口呼吸が習慣化すると歯並びが悪くなるだけでなく、全身健康にも悪影響が出ることがわかっています。
小児矯正では、お口周りのさまざまな筋肉のトレーニングを行うことで、口呼吸を解消し、鼻呼吸ができるようにします。
虫歯予防
小児矯正を通して歯並びをきれいに整えられれば、歯磨きがしやすくなるので虫歯になりにくくなります。
小児矯正の治療期間中は、定期的な通院時に歯のケアも行いますし、虫歯のチェックもしています。歯磨き指導もしていますので、歯磨き習慣を身につけることもできます。
このように小児矯正は歯並びをきれいにするだけでなく、虫歯の予防も期待できます。
難症例でも中程度までで済む可能性がある
大人の方にとっては難症例と思われる矯正治療のケースでも、小児矯正で成長発育期を上手に利用できれば、軽度や中程度で済むことも多いです。
後戻りを起こしにくい
後戻りとは、一旦整えられた歯並びが元の状態に戻ろうとする現象です。
小児矯正では、お子さん自身の成長に合わせて歯を動かしていきます。歯の位置が決まる前に歯を理想的な位置に動かしますので、大人に比べると小児矯正では後戻りを起こしにくいです。
I期治療について
I期治療は、乳歯と永久歯が共存している混合歯列期という時期を対象とした小児矯正です。
最初の永久歯(第一大臼歯)が6歳ごろから生えてくるので、I期治療は6歳以降に開始されます。この時期は成長発育の盛んな時期ですので、お子さんの成長を上手に利用しながら歯並びや噛み合わせを整えていくのがI期治療の特徴です。
Ⅱ期治療について
Ⅱ期治療は乳歯が全てなくなり、永久歯だけになった永久歯列期という時期を対象とした小児矯正です。
上顎骨の成長発育はほとんどが10歳までに完了し、下顎骨のそれが16〜18歳前後で終わるため、Ⅱ期治療の段階では成長発育を利用することは、ほぼできなくなっています。
そのため、大人と同じ方法で歯並びを整えていきます。
小児矯正後の後戻り防止について
小児矯正では後戻りを起こしにくいですが、後戻りを起こさないわけではありません。
後戻りを防ぐには、リテーナーという矯正装置を使っていただきます。特に取り外しタイプのリテーナーでは、きちんと必要な時間つけておくことが大切です。また、舌の癖や口呼吸など、歯並びを悪くさせかねない癖をきちんと治しておくことも忘れてはなりません。
小児矯正の流れ
小児矯正の治療について、6歳ごろから着手したケースを想定し、Ⅰ期治療からⅡ期治療までの治療の流れです。小児矯正の治療は個人差が大きいため、必ずしもこのような流れになるとは限りません。
- 1.
問診
最初は問診です。
歯並びのどのような点が気になっているのかをお聞きします。また、現在だけでなく、過去の病歴、治療歴、食べ物や薬に対してのアレルギーの有無なども教えていだだきます。 - 2.
検査
問診の次は検査です。
歯の数、歯の並び方、噛み合わせの状態を調べます。
レントゲン写真を撮影し、これから生えてくるであろう永久歯の数が揃っているか、それらに異常がないかどうかも確認します。歯並びの状態や顔つきについても、正面や側面から写真を撮影し記録します。もちろん、虫歯の有無もチェックします。 - 3.
診断と治療方針の決定
検査結果から歯並びや噛み合わせの状態を診断します。
診断結果から矯正治療の適否、最適な矯正装置、矯正治療の治療期間などを検討し、説明させていただきます。 - 4.
経過観察
大人の矯正治療と異なり小児矯正では、歯並びや噛み合わせの状態からしばらく経過観察してから矯正治療に着手する場合があります。
もし、経過観察後の矯正治療が適していると判断された場合は、6〜12ヶ月程度経ってから歯並びや噛み合わせの状態を確認します。 - 5.
Ⅰ期治療
Ⅰ期治療に着手します。
歯並びや噛み合わせの状態、顎の骨格の成長具合などにより、最適な矯正装置を選んで使っていただきます。
Ⅰ期治療の治療期間には個人差がありますが、おおむね1〜2年程度です。この間に顎の骨格の大きさや形を整え、永久歯を無理なく並べられるようにします。 - 6.
経過観察
Ⅰ期治療の次はⅡ期治療ですが、Ⅱ期治療は乳歯が全てなくなり、永久歯だけになってから行われる治療です。
多くの場合、Ⅰ期治療が終わった後、Ⅱ期治療に進むまでしばらく期間があります。その間は、6〜12ヶ月に1回くらいのペースで経過観察を行います。 - 7.
再検査と再診断
Ⅰ期治療の治療後の経過観察期間が終わったら、その時点での歯並びや噛み合わせの状態を再度検査して調べます。そして、Ⅱ期治療に進む方が良いのか、Ⅰ期治療で終わってもいいのかを診断し、ご説明します。
- 8.
Ⅱ期治療
Ⅱ期治療に進んだ方がいいと診断された場合、Ⅱ期治療を行います。ただし、この時期は受験や進学の時期に重なることが多いです。
Ⅱ期治療は緊急性がほとんどないので、必要と診断されてもすぐに治療を開始せず、先延ばしにし、しばらく経ってから治療に着手することも可能です。
Ⅱ期治療は永久歯だけの歯並びになっていますので、大人の矯正治療と同じ方法で治療を進めます。また、Ⅱ期治療の治療期間は、個人差はありますが2〜3年ほどです。 - 9.
保定
矯正治療が終われば、後戻りを防ぐ保定に進みます。
保定には、取り外しタイプの可撤式の保定装置、歯に接着する固定式の保定装置があります。
よくある質問
中学生以降のお子さんはⅡ期治療の対象ですが、小児矯正ができないということはありません。
学校や校外活動、塾などで忙しい時期だと思いますので、無理のないときに一度相談に来ていただければと思います。
小児矯正中に虫歯になることはあります。
お子さんは、ご自身では十分な歯磨きができません。小児矯正を受けていただいている間に歯磨き不足で虫歯になってしまうと、小児矯正より虫歯治療が優先になり、小児矯正を一時中断しなくてはならないこともあります。
虫歯にならないよう、くれぐれも注意していただき、お子さんご自身だけでなく、保護者の方の仕上げ磨きも欠かせません。
小児矯正は保険診療の対象外です。そのため、自費診療でしか受けられません。
小児矯正治療を終えた後、後戻りを起こしたときは、程度が軽ければリテーナーの調整で対応できるかもしれません。また、歯並びを悪くする癖があるのなら、その癖を治すように働きかけましょう。
リテーナーの調整や癖の解消で治りにくいなら、再治療を受けることもあります。
小児矯正で使う矯正装置の中には、金属材料を使うものもあります。
金属アレルギーがあるなら、まず皮膚科でアレルギーの原因となる金属を特定してください。その金属が入っていない矯正装置を使って治療を進めていきます。
矯正治療を受けながら虫歯治療を受けることはできません。
小児矯正に着手する前に、虫歯の治療を終わらせておく必要があります。
矯正装置がついていると舌にあたって、舌が動かしにくくなり、発音に影響することがありますが、お子さんの場合、比較的早い段階で慣れて、普通に話せるようになります。
小児矯正でも、歯を動かすときに痛みが出ることはあります。
しかし、子どもは慣れるのも早く、痛みも数日で治ることがほとんどです。
指を吸う癖を吸指癖といい、歯並びを悪くする原因のひとつに挙げられています。
3歳ごろまでに吸指癖がなくなると、歯並びへの影響を抑えることができますが、3歳を超えてからも続けているようでしたら舌癖を生じさせることもあるので、やめさせる方が安心です。
吸指癖の問題点を説明し、止めるよう説得する説得療法で解消できればいいのですが、それが難しいようなら、習癖防止装置を使うこともあります。
治療概要
治療方法 | |
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治療の説明 | 小児矯正は、子どもを対象とした矯正治療です。 |
治療の副作用(リスク) |
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術後の制限事項 | 特にありません |