入れ歯・義歯とは
入れ歯または義歯は、喪失した歯の噛み合わせや見た目などを回復するために選択される治療のひとつです。歯科学的には有床義歯と呼ばれ、人工の歯と床(樹脂でできた歯肉に当たる部分)で作られた構造をしています。
入れ歯・義歯はこんな方におすすめ
- 手術はしたくない
- 歯周病などが原因で顎骨が吸収または少なくなっている
- できるだけ歯を削るのは避けたい
- 残存している歯の状態がよくないため負荷がかけられない
- 障害など何らかの理由で口腔内の清掃が困難
- 歯の欠損部分が多い
入れ歯・義歯のメリット
インプラントやブリッジと比べて、入れ歯の主なメリットは手術が不要、費用が抑えられ、口腔内の変改に伴った修理・調整が比較的容易な点が挙げられます。
保険診療で受けられる
インプラントは保険適用ではなく自費診療なので、治療費が高額になります。
保険診療の適用であるレジン床義歯と呼ばれる義歯は、床が歯科用プラスチックでできており安価で作ることができます。ただし、床を金属など、保険で指定されている材料以外のものを使用した義歯は自費診療となります。
歯を削らない
入れ歯は、残存している歯をほとんど削らずに製作することが可能です。ただし、クラスプと呼ばれる金属製の安定装置を付ける際に、入れ歯の沈み込みを抑えるためのレストという出っ張りを歯の噛み合わせ面に乗せるため、2㎜程度歯を削って窪みを作ることがあります。切削量は非常に少ないため、歯へのダメージは最小限になります。
一方ブリッジは、歯冠全体を削って被せる必要があります。歯は一度削ってダメージを受けると元に戻ることはなく、削った部分は二次う蝕のリスクが高まります。
したがって、入れ歯の大きなメリットのひとつは、歯をほとんど削らなくて済むことといえます。
お手入れがしやすい
入れ歯は着脱式ですので、日常的に外して汚れが残りやすい内側も丁寧にお手入れすることができます。
ブリッジは歯に直接接着するので取り外しができず、特にポンティックと呼ばれる人工歯の下の部分は汚れが溜まりやすく、お手入れが難しい部位です。
歯の本数の制約がない
ブリッジを入れるためには、喪失した歯の位置や本数など細かい条件があるため、適応ではない症例もあります。
一方入れ歯は、喪失した歯の本数や位置で制約を受けることはなく、もしすべての歯を失っても治療が可能です。
歯の状態に影響されない
ブリッジは、歯に接着する一体型の被せ物です。ただ、本数や位置だけを見るとブリッジの適応症例であっても、動揺するなど何らかの理由で支台となる歯が装着するための条件を満たしていなければ、ブリッジ治療を行うことは困難となることがあります。
入れ歯は、状態のよくない歯があったとしても、その歯に負担がかからないような設計で作ることが可能です。
修理できる
ブリッジは破損した場合の修理が困難で、新たに作り直しになることが多い構造物です。
入れ歯は、割れてしまったりクラスプが折れたりしても、多くの場合修理をすれば再び使用することが可能です。中には修理が困難で作り直した方がよいと判断されるケースもありますが、修理で再使用ができれば費用も時間も少なくて済みます。
入れ歯・義歯のデメリット
インプラントやブリッジに比べ、入れ歯は主に異物感が大きく、噛む力が弱い、清掃が煩雑で、ズレや痛みが生じる場合がある点がデメリットとして挙げられます。
サイズが大きい
ブリッジは隣接する歯を支台として、もともとの歯の形態を再現して機能を回復する構造物です。また、インプラントも同様に人工歯根を支えとして歯冠部を元の歯に近い状態に回復するので、どちらも床の部分はなく最小限のサイズ感です。
入れ歯はどうしても人工歯を大きく支える床があるため、サイズが大きくなり違和感が強くなります。
食べ物が裏側に入り込む
入れ歯はフィットしていることが重要ですが、食事をすると食べ物が隙間に入り込んでしまうことが多く、違和感の原因になります。もちろん外して洗えばきれいになりますが、食事中たびたび外して洗うことは現実的ではありません。
お手入れを怠ると不衛生になる
入れ歯はお手入れをせず長期間装着したままにすると、床の内側にカンジダとよばれるカビが生えることがあり不衛生になります。
話しづらくなる
特に上顎の入れ歯は、設計によっては口蓋部分を広く床で覆い安定させます。そうすると、話す際に舌が床に触れる感覚に慣れるまで話をしづらくなることがあります。
入れ歯を失くすリスク
入れ歯は着脱式のため、外した時に置いた場所を忘れてしまったり、誤って捨ててしまったりして、失くしてしまうリスクがあります。
臭うことがある
入れ歯は長く使用していると、入れ歯用洗浄剤などを使用して丁寧に洗っていても、入れ歯特有の臭いがついてしまうことがあります。
入れ歯・義歯の種類
入れ歯は欠損している歯の状態によって、部分入れ歯と総入れ歯の2つの種類があります。
部分入れ歯(部分義歯)
部分入れ歯は、歯科学的には部分床義歯とよばれ、残存している歯がある状態で装着する入れ歯です。
基本的に人工歯、床、クラスプ(歯に引っ掛ける金具)で作られた構造物ですが、設計によっては左右の床を連結するバー(連結子)と呼ばれる金属製のパーツがあります。
総入れ歯(総義歯)
総義歯は正式名称を全部床義歯といい、すべての歯を喪失した場合に作られる入れ歯です。クラスプはなく、粘膜に吸着する力で安定する構造になっています。
当院の入れ歯・義歯
当院では、保険適用の入れ歯以外にも自費診療の入れ歯も製作可能で、審美性を追求される方にも対応しています。
ノンクラスプデンチャー(自費診療)
部分入れ歯のひとつであるノンクラスプデンチャーは、保険が適用されない自費診療の入れ歯です。
入れ歯で最も目立ちやすい金属製のクラスプという装置の代わりに、床を延長して歯を挟み込むような構造で入れ歯を安定させます。ただし、費用が高額になることがデメリットです。
金属床義歯(自費診療)
金属床義歯は床の大部分が金属で作られており、その金属が粘膜に吸着する自費診療の入れ歯です。
金属にすることで厚みが薄く舌触りも改善するだけでなく、金属の性質上温度を感じやすいので食事中の違和感もかなり軽減できます。ただし、保険適用ではないため治療費は高額になります。
保険適用の入れ歯・義歯
保険適用の入れ歯は、床の素材がレジンという歯科用プラスチックでできていいます。レジンは強度を確保するために厚みがあり違和感が強い反面、修理しやすいという特徴があります。また、装着した当初と比べると骨が痩せて歯肉面の形状が変わり、入れ歯との間に隙間ができて安定しなくなった場合でも、比較的容易に隙間を埋めてフィット性を復元することが可能です。
保険適用の入れ歯の治療費は低価格ですが、保険の規定で新製してから6ヶ月経過しなければ新しく作ることができないと定められています。
入れ歯・義歯治療の流れ
当院では、義歯治療の実績を豊富に持つ歯科医師が、よく噛める入れ歯治療を行っています。
- 1.
問診
入れ歯に対しての希望やこれまで作ったことがあるか、また、既往歴や現病歴、薬や食べ物、金属などのアレルギーの有無などについてお聞きします。
歯の状態によっては入れ歯だけではなく、他の治療方法についてもご説明します。 - 2.
検査と診断
残存している歯を保存できるか、義歯の安定のためのクラスプをかけられるか、あるいは抜歯が必要かなどについて診断するために、いくつかの検査を行います。同時に、入れ歯を装着する部位の顎の骨の状態も検査します。
これらの結果を踏まえて、診断を行います。 - 3.
治療計画の作成
入れ歯を作るための治療計画を作成します。
もし、虫歯や歯周病が確認されて治療が必要な場合や抜歯が必要な歯がある場合には、治療計画の中に組み込まれます。治療計画では、入れ歯の形状や素材、どの歯にクラスプをかけるのかなどの設計についても説明されます。 - 4.
抜歯
抜歯が必要な歯がある場合には、入れ歯の製作を始める前に抜歯します。
抜歯は、何らかの疾患や使用している薬などによって主治医に確認が必要となる場合があります。 - 5.
虫歯治療
治療が必要な虫歯がある場合には、入れ歯を製作する前に治療します。
小さい虫歯であれば、コンポジットレジンという歯科用プラスチックを詰めて即日治療ができることも多いですが、虫歯が大きかったり深かったりする場合には、根管治療や被せ物などの処置が必要になりますので、入れ歯の製作に入るまでにしばらくの期間がかかります。 - 6.
印象採得
歯型を採ることを印象採得といい、型取り用のトレーに印象材という粘土状の材料を盛り、口の中に挿入して固めます。
既成のトレーを使用する場合にはそのまま印象採得を行いますが、より精度を高めるために個人トレーとよばれる個別のトレーを使う場合は、個人トレーを作るための受診が必要です。 - 7.
咬合採得
咬合採得は、入れ歯の噛み合わせの高さや歯の位置を決定する工程です。
ワックスで作られたろう堤とよばれる入れ歯の概形を使って、専用の器具で測定や微調整をしながら行います。 - 8.
試適
咬合採得したろう堤に人工歯を並べて完成に近い形の仮の入れ歯を作り、実際に口の中で合い具合を確認することを試適といいます。
試適では、前後や左右の関係と顔とのバランスや位置関係などもチェックします。 - 9.
完成
試適で問題がなければ、歯科技工士がろう提部分をレジンに替えて入れ歯を完成させます。歯科医師が口腔内で噛み合わせや合い具合などの微調整を行い、取り扱いの説明も行います。
- 10.
調整
新しく装着した入れ歯で食事をするなど日常的に使用していただき、痛みや緩さ、きつさなどの不調部分を確認して調整を行います。
入れ歯・義歯のよくある質問
入れ歯は永久的に使えるものではありません。保険適用の入れ歯は5年弱程度、金属床で6~7年程度が目安とされていますが、これらは日頃の使い方や骨・歯肉の状態などによって個人差があります。
歯が抜ける原因にもよりますが、抜けた後の歯肉は腫れるなど炎症を起こしていることも少なくありません。その状態のまま歯型を採ると、腫れた状態の歯型に合わせて入れ歯が作られるため、腫れが引くと入れ歯との間に隙間ができます。
そのため、歯が抜けたら歯肉の状態が落ち着くまで時間をおいてから型取りをするのが一般的です。
気づかれにくい入れ歯としては、金属製のクラスプがないノンクラスプデンチャーがおすすめです。ただし、ノンクラスプデンチャーは欠損している歯の本数や状態によっては適応でないこともあります。
また、それ以外にもインプラントやブリッジなら、ほとんど気付かれることはありません。
入れ歯の方も定期検診は必要です。
特に部分入れ歯の方は、クラスプをかけている歯に無理をさせていたり虫歯や歯周病が進んだりするリスクがあります。また、総入れ歯は骨が痩せると床との間に隙間ができて緩くなることがありますので、定期検診で確認することができます。
歯を支える歯槽骨は、普段から入れ歯を入れていても徐々に吸収され、歯肉と共に形が変わっていきます。そうすると入れ歯との間に隙間ができて、徐々に合わなくなります。
入れ歯・義歯の治療概要
治療方法 | |
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治療の説明 | 入れ歯は歯を失った時に口腔機能を回復するために作られる着脱式の装置で、人工歯と床、クラスプで構成され、残存歯がまったくないタイプの総入れ歯と残存歯があるタイプの部分入れ歯があります。 |
治療費 | 保険適用:数千円~15,000円程度、自費診療:99,000~286,000円程度 |
治療期間 | 保険診療・自費診療ともに10日~1ヶ月半程度 |
通院回数 | 保険診療:4回程度、自費診療:5~6回程度 ※装着後入れ歯の調整が必要 |
治療の副作用(リスク) | 嘔吐反射、義歯による潰瘍やびらん形成・接触痛・咬傷、鈎歯(クラスプをかけた歯)の動揺や脱落 |