フッ素塗布とは
フッ素塗布とは、歯面に直接フッ化物を塗布する虫歯の予防法です。フッ素塗布以外の方法としては、他にも歯磨き剤や洗口剤の活用があります。
一般的なフッ素入り歯磨き粉のフッ素濃度は1,000~1,500ppm、フッ素入り洗口剤では200~900ppmとされています。それと比較して、フッ素塗布で使用されるフッ化物のフッ素濃度は、市販の歯磨き剤や洗口剤より高い9,000ppmです。
ただし、このような高い濃度のフッ化物を使用するのは、国家資格を持つ歯科医師や歯科衛生士に限られているので、これらの歯科専門職が在籍していない歯科医療機関以外の場所では受けることができません。
フッ素とは
昔、アメリカにイタリアから移住した人々に斑状歯と呼ばれる歯の色の異常が見つかりました。
その一方で、虫歯がほとんどないこともわかり調査を行ったところ、井戸水に高濃度のフッ素が含まれていることが判明しました。これらの事実を基にさまざまな研究が行われ、フッ素が虫歯予防に効果があることがわかったのです。
さらに、その後の研究によって虫歯の予防効果があり、斑状歯になりにくい適切な濃度も解明され、虫歯予防に効果的な物質として適切にフッ素が使用されるようになりました。
フッ素塗布の目的と効果
フッ素塗布は歯質を強化し、虫歯菌の活動を抑制することで虫歯を予防します。
齲蝕原因菌の活動抑制
虫歯の原因となっている主な細菌は、ストレプトコッカス・ミュータンス菌です。この菌は歯に付着した汚れを分解して酸を生成し、歯を脱灰(溶かす)して虫歯にします。
フッ素は、このような虫歯の原因となる細菌の活動や酸の生成を抑制する効果が期待できます。
再石灰化の促進
虫歯の細菌が生成した酸は、歯の表面のエナメル質を脱灰します。そして、脱灰されたばかりの初期虫歯の段階では、溶け出てしまったミネラル成分が歯に再吸収される再石灰化という修復が行われます。しかし、脱灰のスピードに再石灰化が追い付かない場合には虫歯へと進行します。
フッ素には、歯を修復する再石灰化を促進する作用があるため、虫歯予防に効果があるとされています。
歯の耐酸性の向上
再石灰化の過程では、歯にフッ素がどんどん吸収されます。
歯はもともと、ハイドロキシアパタイトという物質でできていますが、フッ素が吸収され再石灰化することによってフルオルアパタイトという、より酸に強い強固な物質となります。
つまり、フッ素塗布によって歯の質が酸に強い性質に変わるということです。
大人に対するフッ素塗布の目的
年齢や歯周病などが原因で歯肉退縮(歯肉が下がっていくこと)が起こると、本来歯肉の下にある歯根が露出します。
歯根にはエナメル質がないため、酸に対しての耐性が低く、虫歯になりやすいことがわかっています。そこで、露出した歯根部分の耐酸性を向上し、虫歯を予防する目的でフッ素塗布が行われます。
子供に対するフッ素塗布の目的
生えたての歯はエナメル質が未成熟なため柔らかく、虫歯の細菌が生成する酸に弱いという特徴がありますが、一方でフッ素を取り込む量も非常に高いとされています。その性質を活用して耐酸性を向上させ、強い歯にすることを目的に成長途中の歯にフッ素塗布を行います。
子どものフッ素塗布に適した時期としては、高校生くらいまでといわれています。その理由として、親知らずを除き、永久歯の最後に萌出する第二大臼歯が中学生くらいで萌出し2~3年かけてエナメル質が安定し硬くなる時期なので、フッ素を吸収しやすいからです。
年に数回程度、定期的にフッ素塗布を行うことが推奨されます。
歯科医院と自宅でできるフッ素塗布の違い
フッ素による虫歯予防は、フッ素塗布以外にもフッ素入りの歯磨き剤や洗口剤の活用があります。歯科医院に通院せず、気軽に購入して使うことができるのがメリットです。
ただ、自宅で使用できるものはフッ素の濃度が低いため、日常的に継続して使うことが前提ですが、歯科医院で行うフッ素塗布は高濃度なので、高い効果が長期にわたって作用します。
歯科医院で受けるフッ素塗布と自宅でできるフッ素の活用を併用すると、予防効果をさらに高めることができます。
フッ素塗布の安全性
フッ素塗布に使用されるフッ化物は、大量に摂取することで下痢や嘔吐などの中毒症状が起こることがあります。中毒症となる最小量は、体重1kgに対して2mg程度で、これは体重20kgの場合40mg程度、30kgの場合60mg程度に相当します。
フッ素塗布に使用されるフッ化物のフッ素濃度は2%で9,000ppmなので、溶液1mlあたり9.0mgという計算になりますが、計算された適量を使用しますので中毒の心配はありません。
フッ素塗布の持続効果の施術頻度
新潟県において一つの村の全乳幼児を対象として、生後10ヶ月~3歳までの間に2ヶ月おきに年6回のフッ素塗布を行った研究の報告では、虫歯が69.5%減少し、虫歯が1本もない3歳児の割合も3倍近くになったとの報告があったそうです。
この調査と比較して、通常行われる年2回のフッ素塗布の虫歯予防効果は2割ほどで、さらにきちんと定期的に行わなければ効果は薄いとされています。
これらのことから、本来ならば2ヶ月おきにフッ素塗布を行う方が高い予防効果を得られると考えられますが、頻回に受診して受けるのはなかなか難しいため、せめて3~4ヶ月に1回くらいを目安にすることをおすすめします。
フッ素塗布の流れ
当院のフッ素塗布の流れは次の通りです。
- 1.
問診
まず気になっていることはないか、現病歴や既往歴、使用している薬の有無、アレルギーの有無などを確認します。
- 2.
歯の状態のチェック
虫歯や歯周病に罹患していないか、プラークや歯石の付着がないかなど、細かく歯の状態をチェックします。虫歯や歯周病に罹っていることが確認された場合には、フッ素塗布の前に治療を行います。
- 3.
歯のクリーニング
フッ化物を全体にしっかり塗布できるよう、歯の表面に付着しているプラークや歯石などの汚れを除去します。
- 4.
歯の乾燥
エアーや綿球などを使って、歯の表面を乾燥させます。
- 5.
フッ素塗布
フッ化物ジェルを歯ブラシや綿球などで、歯面に丁寧に塗布します。
- 6.
フッ素の拭き取り
フッ素塗布後一定時間そのままの状態で作用させた後、歯面に残っているフッ化物を綿球などで拭き取り、フッ素塗布を終了します。うがいはできませんのでご注意ください。
よくある質問
1歳に満たない赤ちゃんでも可能です。生えて間もない赤ちゃんの歯はフッ素を吸収しやすいので、虫歯予防効果を高めるためにも早めのフッ素塗布がおすすめです。
確かにフッ素塗布には虫歯予防効果が期待できますが、それだけで虫歯を予防することはできません。毎食後の歯磨きもしっかり行うことが、虫歯予防に不可欠です。
効果的な虫歯予防には、フッ素塗布を少なくとも1年に2回以上定期的に受けることが推奨されています。1回の塗布では一時的な効果しか望めません。
治療概要
治療方法 | |
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治療の説明 | フッ素塗布は高濃度のフッ素を歯面に直接塗る虫歯予防法で、3~4ヶ月に1回程度塗布することで、フッ素入り歯磨き剤や洗口剤よりも長期にわたり、子どもから大人まで歯質強化による虫歯予防効果を期待できます。 |
治療の副作用(リスク) | 特になし |
術後の制限事項 |
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