根管治療とは
何らかの原因で歯髄に感染や炎症、壊死などが起こると、抜歯が必要となったり、炎症が周辺組織に拡大したりすることがあります。このような事態を回避し、できるだけ機能を維持回復するために行うのが根管治療です。
根管治療では、根管の内部にある歯髄を完全に除去して無菌になるまで消毒を行い、再び感染しないよう薬剤で根尖(根の先端)まで完全に封鎖します。
歯髄とは
歯の内部には根管という穴があり、その中に歯髄があります。
歯髄は顎骨内から枝分かれして歯の内部に伸びた神経や血管の集まりで、歯に栄養や酸素を与え、痛みなどの感覚の伝達や歯の防御反応・正常な成長などに重要な役割を担っています。
しかし、虫歯などが原因で歯髄に感染や炎症が起こった場合には、根管治療とよばれる治療が必要となります。
根管治療の成功率
根管治療は歯内療法のひとつで、歯内療法学会による専門医の認定制度があり、国内や海外でも歯内療法だけを専門に行っている歯科医師がいるなど専門性が高く難易度の高い治療です。
東京医科歯科大学が2005年~2006年に行った調査によると、根管治療の成功率は部位によって差はあるものの、半数以上に再感染による根尖の炎症がみられると発表されています。その反面、欧米においては80~90%の高い成功率が報告されています。
根管治療は該当する歯に初めて行う治療が肝心で、再治療するたびに成功率が下がることが分かっています。近年、根管治療の成功率を高める条件も明確にされ、実践している歯科医院も増えていることから治療の成功率は高まっています。
根管治療の症状と治療の必要性
根管治療が必要と考えられる症状には、様々なものが見られます。
神経のある歯がズキズキと痛い
虫歯などによって細菌が歯髄内に侵入すると、神経が炎症を起こして痛みが起こります。初期は断続的に痛みますが、進行すると絶え間なく我慢できないほどズキズキと痛みます。
このような場合、麻酔をして炎症を起こした歯髄を取り除く根管治療が必要です。
過去に神経を取った歯がズキズキと痛む、咬んだ時に痛い、夜になると痛い
過去に根管治療を行った歯が痛む原因として、根管内が再感染して再び炎症が起きて、膿が溜まっている可能性があります。
このような場合、レントゲン検査で根尖に膿が溜まっている部分の骨に黒い透過像が確認できます。また、歯の周囲にある歯根膜という組織に炎症が波及すると、咬んだときに痛みが起こります。
炎症を抑えるには、内部を消毒して原因を取り除く根管治療が必要です。
レントゲンで膿が溜まっているのが見つかった
定期検診などでレントゲン撮影をした際に、症状はなくても根尖病巣が偶然見つかることがあります。多くは、過去に神経を取る処置を行った歯が再感染して、徐々に歯の周囲の顎骨の中に膿が溜まった状態です。
今は痛みがなくても、放置すると痛みが出たり、腫れたりすることがあるため、根管治療を行うことが推奨されます。
歯茎や頬が腫れた
急に歯肉にぷくっと膨らみができたり、顎や頬が腫れたりすることがあります。特に奥歯が腫れると口が開かなくなったり、熱が出たりすることもあります。
このような場合、まず歯や歯肉に膿の出口を作り顎骨内の圧を下げ、抗生剤の投与などにより落ち着いてから根管治療を行いますが、予後が悪いこともあります。
歯茎に小さなできもののようなものができて消えない
歯肉にできものや水泡のような白い小さな膨らみができて、なかなか消えない場合は根尖周囲の骨などに膿がたまっていることがあります。
このできもののようなものは、歯肉にたまった膿の出口ができたもので、レントゲン撮影によって診断し、根管治療を行うことが必要です。
鼻詰まりや頭痛が起こる・目の下を叩くと響く
これまでなかった鼻詰まりや頭痛が続いたり、目の下を軽く指で叩くと響いたり、痛みを感じたりする場合は、副鼻腔炎を起こしていることがあります。
歯性上顎洞炎、または歯性副鼻腔炎(上顎の根尖部に炎症が起こり副鼻腔に波及したもの)とよばれるもので、抗生剤の投与と根管治療が必要になります。
手や足に湿疹ができてなかなか治らない
根尖に起こった炎症から細菌が血管に侵入すると、全身に影響してアレルギーによる掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)を引き起こすことがあります。
手や足に湿疹ができてなかなか治らない場合、検査を行い根尖病巣が認められた歯の根管治療を行うことで改善することがあります。
当院の根管治療に対する考え方
根管治療に対してどのように考え、どこをゴールとして治療に臨んでいるのか、当院の根管治療の方針についてご紹介します。
的確な診断の必要性
根管治療の成功率を高めるには、歯の現状を的確に把握し診断を行い、寿命を縮めないために必要な治療を高い制度で行うことが大切です。
根管治療は繰り返すほど歯の状況は厳しくなっていくことが多いため、その都度の診断が非常に重要になることは間違いありません。そこで、ひとつひとつの診断を的確に行うための見極めに力を入れています。
的確な診断のために行っていること
根管治療を成功させるための診断と治療を行うために、当院では次のようなことを実践しています。
- 的確に状態を把握し治療方針を立てるための必要かつ適切な検査による診断
- 丁寧な問診による症状の把握
- これまでに行った治療の原因や時期・経過などの把握
- 根管ごとの診断や治療方針の選択
- 歯周病の可能性も視野に入れた検査
- 精密な病状確認と治療
- 治療が必要となった要因と今後のリスク回避の検討
これらのことから総合的に判断して治療方針へと反映することによって、歯を抜く可能性を最大限排除し、噛める歯であり続けることを目指しています。
最終手段としての根管治療
歯は生きていることで、最大限の機能を発揮できる器官です。そのため、神経を取る「抜髄」はできる限り回避することが求められます。
当院では、抜髄はせず温存できないかをまず検討し、それでもやむなく抜髄が必要と診断された場合に最終手段として根管治療を選択します。その場合は、再感染のリスクを残さないために、最大限の注意を払いながら治療を行います。
当院の根管治療のゴールとは
当院が根管治療を行うとき、その歯が歯としての機能をきちんと維持できるか、つまり今後もその歯を失うことなく『きちんと噛める歯であり続けること』を治療のゴールと考えています。
一度失った歯髄が再生することはありません。後戻りのできない治療を、取り返しのつかない治療にしないことが当院の使命だと考えています。
根管治療の種類
根管治療では、症状に合わせて治療法を検討していきます。
抜髄
歯髄が感染して炎症が起こったときに、麻酔をして感染した歯髄を取り除く治療です。
細い根管の中にファイルとよばれる専用の器具を入れ、感染した根管の内面もきれいにこさぎ取って、消毒治療を繰り返し行った後に管を封鎖します。
感染根管治療
過去に歯髄を取った歯や、神経が壊死してしまっている歯の根管内をきれいにする治療です。
根管内で細菌が増殖し、根尖の外まで炎症が波及して、根尖病巣(根尖に膿が溜まった状態)ができていることが多く、抜髄より治療回数は多く、治療期間も長くなりがちです。
放置すると炎症が拡大して、腫れや痛みなどの強い症状が出たり、抜歯が必要になったりすることがありますので、早めに治療を開始すべき状態です。
再根管治療
感染根管処置と同義語として使われることが多い呼び方で、症状の有無などに関わらず、過去に根管治療を行った歯が再感染している場合に行われる治療を指します。
根管内にある薬剤などを取り除き、消毒処置を繰り返したのち再び封鎖します。
外科的歯内療法(根管治療と併用する治療)
根管治療を適切に行っても根尖病巣が消えず、根管治療の成果が低いと診断された場合に行う治療です。
歯肉を切開して残っているのう胞(膿の袋)と、感染している歯の根尖を外科的に取り除き再び歯肉を縫合します。根管治療を行って根管を封鎖した後に行われます。
根管治療の流れ
一般的な根管治療の手順をご紹介します。
- 1.
①検査
レントゲン検査(パノラマ撮影やデンタル撮影など)、電気的歯髄診断(弱い電流を流して歯髄が反応するかを診断)、打診(歯を叩いて痛みの有無を診断)、視診(虫歯の進行具合やヒビの有無など)などを行い、歯の状態を検査します。
- 2.
➁詰め物や虫歯の除去
抜髄の場合は麻酔を行いますが、感染根管治療(再根管治療)では麻酔は使用しないことがほとんどです。
それから歯の詰め物や被せ物、そして虫歯を取り除いていきます。 - 3.
➂歯髄を取り除く(抜髄の場合)
虫歯を取っていくと、歯髄腔と呼ばれる部分に到達します。神経と血管が詰まっている部分で、この部分から根管の入り口が見えるところまで削ります。根管の入り口が見えたら、ファイルという細い針のような器具を差し込んで根管内の神経や血管を除去します。
- 4.
➃根管治療
根管の中を丁寧に掃除して消毒します。ここからはまさに職人技で、ファイルを細いものから徐々に太いものにチェンジしながら、根管の内部を拡大(感染した内面をこそぎ取り形を整えていく)していきます。
この時、EMR(電気的根管長測定器)やレントゲンなどを駆使して、根管の先端までしっかり拡大することが重要です。この拡大と薬剤による根管内の消毒、仮封を無菌になるまで続けます。無菌化されたかどうかの判断は、治療を行う歯科医師の経験とスキルで判断します。 - 5.
⑤根管充填
根管治療によって無菌になった根管を専用の薬剤で密封します。
一般的には、GPP(ガッタパーチャポイント)に根管充填剤を付けて、加圧しながら隙間なく封鎖します。その後、根管内がきちんと封鎖されているかをレントゲン(デンタル撮影)で確認します。
ただし、感染が酷く根管や根尖の状態が悪い歯の場合では、GPPを使った加圧根管充填は行わず、水酸化カルシウム系のペースト根管充填材などを選択することがあります。その場合、しばらく経過をみてからあらためて加圧根管充填を行うこともあります。
よくある質問
根管治療をした歯の寿命は、大体11年程度というアメリカの研究発表があります。
歯としては死んだ状態にあり、栄養が届かないため歯質は脆くなりますし、再感染や再う蝕のリスクも高くなるのは確かです。ただ、残っている歯質の量や、定期的なチェックの有無、毎日の口腔ケアや生活習慣など、さまざまな要因で変動します。
根管治療中には、下記のような痛みが生じることはあります。
<ul>
<li>麻酔が効かない(歯髄の炎症が強い時や麻酔が効きにくい体質の人など)</li>
<li>炎症が強い時や治療の刺激で一時的に細菌の活動が活発になった</li>
<li>治療器具が根尖の神経に触れた(根尖のすぐ外側の神経は生きているため)</li>
<li>治療に使用した薬剤が強すぎる(細菌の種類によっては薬剤が合わないことがある)</li>
<li>根管充填による痛み(圧力をかけて密封するため、内圧が上がって痛むことがある)</li>
<li>咬むことによる痛み(歯の周囲に炎症が残っている場合、咬むと響くことがある)</li>
</ul>
近年、根管治療は大きく成果を上げて残せる歯が増えてきました。それでも以下に挙げたケースでは、抜歯になることがほとんどです。
<ul>
<li>歯根本体が割れている場合(歯根と歯根の間であれば残せるケースもある)</li>
<li>歯根に穴が開いている場合(小さな穴は塞げることがある)</li>
<li>歯周病やのう胞(膿溜まり)などで周囲の骨が大きく吸収して歯の動揺が強い</li>
</ul>
治療概要
治療方法 | 根管治療 |
---|---|
治療の説明 | 抜髄、感染根管処置やそれに伴う根管内の丁寧な消毒を行った後、細菌が再侵入しないよう根管を薬剤で封鎖する。 |
治療の副作用(リスク) |
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術後の制限事項 |
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