顎関節症とは
顎関節症はTMJ症候群ともよばれ、顎関節やその周囲にある筋肉などの組織にトラブルが起きた状態で、口を開けたり動かしたりする際に痛んだり、音がしたり、口が開けづらいといった症状がみられる状態です。
顎関節の仕組みと正しい動き方
顎関節は耳の穴の前に位置しており、下顎頭(下顎骨の上に伸びた突起状の部分)とそれに付随する関節円盤(クッションのようなもの)、下顎窩(頭蓋骨の耳の穴の前にある窪み)の3つがワンセットになって働いています。
顎関節の動きは前後運動です。実際に動くのは下顎の骨で、関節円盤が緩衝材の役目をして骨と骨が直接擦れず滑らかに動きます。口を閉じた状態では、下顎窩に関節円盤・下顎頭の順で収まっています。口を開けるときは、関節円盤が下顎頭と一緒に前に動いて開口します。
顎関節症の症状
顎関節症にみられる以下に挙げる症状がみられる場合には、悪化する前に早めに受診することが大切です。
痛み(開口時痛)
口を開けたり、閉じたり動かしたりする時に関節や筋肉に痛みがある状態です。咀嚼の時に痛みを感じることもあります。
音(関節雑音)
口を開ける、顎を動かすときに「カクカク」「シャリシャリ」「ポキポキ」「パキン」などの音がします。
口の開けづらさ(開口障害)
食事やあくびなどの時に口が大きく開けられない状態です。悪化すると、食べ物を口に入れるのも難しくなることがあります。
その他
顎関節症に伴って肩や首のこり、頭痛などの症状がみられることがあります。
顎関節症の分類
顎関節症は症状によって以下のような類型に分けられています。
I型
顎関節の周囲にある筋肉の障害によって、痛みなどの症状が起こるものです。側頭筋や咬筋などからなる咀嚼筋に多く見られますが、首の周囲にある筋肉が痛むことがあります。
Ⅱ型
顎関節やその周りに負荷がかかることによって、関節包や骨と骨をつないでいるじん帯に炎症が起こり、痛みが発生します。
Ⅲ型
関節円盤がずれて関節頭がスムーズに移動できなくなり、音がしたり開口障害が起こったりします。
Ⅳ型
顎関節を構成する骨が変形することによって炎症が起きたり、開口時に音がしたりします。長い時間をかけて負荷がかかることや、たびたび強い力がかかることが主な原因です。
Ⅴ型
Ⅰ~Ⅳに該当しないケースです。
顎関節症の原因
顎関節症の原因はさまざまですが、症状を改善する第一歩は自分に考えられる原因を見つけ出すことです。ただ、顎関節症の原因は複合的で、いくつもの要因が重なっているケースがほとんどです。
骨や筋肉の異常
長年の歯ぎしりや加齢などによって関節頭がすり減って変形したり、関節円盤がすり減って動きが悪くなったりして炎症が起こります。
関節リウマチによって変形することもあります。
咬み合わせの悪さ
咬み合わせが悪いと、関節にかかる力のバランスが崩れて負担がかかります。
咬み合わせはとても繊細で、詰め物や被せ物などの治療や親知らずによってずれることもあります。
姿勢の悪さ
パソコンやスマートフォンを長時間使用する人が増えています。前かがみや猫背などの姿勢を続けることによって、首や肩、顎関節にじわじわと負担がかかり蓄積していきます。
激しいスポーツ
スポーツをしている人は力を集中する際に食いしばることが多く、顎関節に強い負荷がかかります。
ストレス
精神的なストレスがかかると、無意識に食いしばることがあります。
食いしばりは関節や筋肉だけでなく、歯にも強い力がかかり悪影響を及ぼしますが、容易にやめることができません。
日常的な悪い習癖
頬杖や歯ぎしり、食いしばりなどの日常的な癖は自覚のない人が多く、症状が出たり、歯科医院で指摘されたりして気付く人も少なくありません。
事故などによる外傷
交通事故、転倒、打撲、骨折などによって顎関節に外的な力が加わり、炎症を起こしたり、時には関節のずれや変形を起こしたりして症状が現れます。
顎関節症の治療法
顎関節症は適切な治療を継続的に行うことで症状を改善していきます。
マウスピース(スプリント)療法
主に上の歯の咬み合わせを覆うマウスピースを装着し、咬み合わせが安定する位置に誘導して顎関節や筋肉の負担を和らげ安静にするための治療法です。
咬み合わせの調整
咬み合わせを確認し、ずれがある場合にはバランスがよくなるよう調整して顎関節への負担を軽減します。
薬物療法
特に痛みなどの症状が強い場合には、消炎鎮痛剤を処方します。
日常生活に関する指導
食いしばりや歯ぎしりを意識することや姿勢の改善、ストレスの解消など、日常的に気を付けることについて指導を行います。
血行やリンパ行の促進
特に筋肉の痛みなどがある場合には、温めることで症状がやわらぐことがあります。レーザーを使って血行やリンパの流れをよくする方法も効果的です。
顎関節症治療の流れ【共通の流れ】
顎関節症の治療は、複数の方法を並行して行うことがほとんどです。
- 1.
問診・カウンセリング
咬み合わせや顎関節に関すること、日常生活、口腔領域や全身の気になることなどについて幅広く聞き取りを行います。
- 2.
検査、診断
開口状態、関節の動きの状態、口腔内の状態を確認します。関節の状態を確認するためのパノラマ撮影を行います。
- 3.
治療計画
問診の内容や検査によって行った診断を基に治療計画を立ててご説明します。虫歯などの治療が必要な場合には、先に行うこともあります。
顎関節症治療の流れ【治療法ごとの流れ】
- 1.
マウスピース(スプリント)療法
歯型を採り、技工士が専用のマウスピースを作成します。完成したマウスピースを装着して微調整を行い、使用法を説明します。
特に就寝中などに装着します。 - 2.
咬み合わせの調整
咬み合わせのずれを確認し、必要な個所を少しずつ削ったり形の修正をしたりして調整を行います。状態を見ながら複数回に分けて微調整を行うこともあります。
- 3.
薬物療法
痛みが強い場合には、いったん症状を抑えるために消炎鎮痛剤を処方します。症状が治まり無理なく開口できるようになったら、スプリント療法や咬み合わせの調整などを行います。
- 4.
日常生活の指導
日常生活上の癖などを治さなければ、症状が治まってもまた繰り返します。そこで、治療と並行して日常生活の注意点や癖を治すためのポイントなどの指導や経過観察を行います。
よくある質問
治療期間には個人差がありますが、すぐに改善することは難しく、数週間から数ヶ月、あるいは年単位で長期的に考えることが大切です。顎関節に負担のかかることをできるだけ避け、指示された治療法をきちんと続けることが症状を速く抑える最良の方法です。
症状がある時は、できるだけ硬い物は避けましょう。ただ、柔らかいものばかりでは栄養が偏ったり、不足したりすることがあります。炎症を改善するためには、適切な栄養摂取はとても重要です。
また、大きく口を開けなければいけないような食材は、小さく切って食べやすくするとよいでしょう。
顎関節症の治療には保険が適用されます。初診から検査、診察、マウスピースの作成や投薬、咬み合わせの調整など、ほとんどが保険の対象です。
マウスピースの作成料は、保険診療で5,000~6,000円程度です。
顎関節症は完治が難しい病気です。癖が原因である場合や骨の変形などの器質的な異常がある場合は、たとえ一時的に症状が治まっても再発のリスクは高いでしょう。
例えば、日中は食いしばりをできる限り意識して、夜間はマウスピースをきちんと使い続けている方は再発のリスクは減少します。ただ、状態は常に変化していますので、定期的な診察は再発予防には不可欠と言えます。
ごく軽度な顎関節症で原因を克服できれば自然治癒もあり得ます。しかし、症状が治まると放置する人も少なくないのが現状で、実は多くの人は症状があっても支障を感じない程度ならあまり気にしないようです。
一時的な原因によって起こった顎関節症なら原因が解消されれば自然治癒もありえますが、原因よりも症状を基準にして治ったと自己判断してしまい、再び悪化するリスクに気付かない人が多いです。
治療概要
治療方法 | |
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治療の説明 | 顎関節やその周囲に起こる異常や炎症を軽減することを目的として、顎関節や筋肉の緊張緩和と動作性の向上、正常な咬合の獲得、悪影響を与える要因の排除等を目指して行う治療で、複数の方法を併用することが多い。 |
治療の副作用(リスク) |
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術後の制限事項 |
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