ワイヤー矯正とは
ワイヤー矯正は、歯につけたブラケットに形状記憶合金製やステンレス製などのアーチワイヤーをはめて、アーチワイヤーの弾力性を利用して歯を移動させる矯正治療法です。正式にはマルチブラケット矯正とよばれ、100年以上の歴史がある矯正治療法です。
ほぼ全ての歯列不正に対応できるのが特徴です。
ワイヤー矯正はこんな方におすすめ
- 八重歯(犬歯の低位唇側転位)
- 乱杭歯(叢生)
- すきっ歯(開咬)
- 出っ歯(上顎前突)もしくは受け口(反対咬合)
- 生まれつき歯の本数が少ない方(先天欠如歯)
- 骨格に原因のある歯列不正(顎変形症)
ワイヤー矯正の仕組み
ワイヤー矯正ではまず、歯の表面にブラケットという金具をつけます。そのブラケットの溝にワイヤーをはめ込み固定します。次第に固定したワイヤーが変形していき、変形したワイヤーは元の形に戻ろうとします。このワイヤーが元の形に戻ろうとする力が矯正力となり、歯を動かします。
ワイヤーが元の形に戻ると矯正力はなくなりますので、そのワイヤーは取り外し、次の段階のワイヤーに付け替え、新たな矯正力をかけて歯を動かします。
これを繰り返し、理想的な歯並びを目指して歯を動かしていきます。
ワイヤー矯正のメリット
ワイヤー矯正は歯並びと噛み合わせを改善し、口腔衛生と審美性を向上させる。
ほぼ全ての歯列不正に対応できる
まず挙げられるのが、ほぼ全ての歯列不正に対応できるという点です。
“抜歯してスペースを確保する” “埋まった歯を引き出す” “出過ぎた歯を下げる”いずれも困難な矯正治療ですが、ワイヤー矯正なら対応できます。
問題点がほとんど解消されている
ワイヤー矯正の歴史は100年以上に及びます。ワイヤー矯正は、ほぼ全ての歯列不正に対応できますので、ありとあらゆる歯列不正の治療に応用されてきました。そして、治療の過程で生じたさまざまな問題点に対し、解決法が開発されました。
現在ではワイヤー矯正で問題となる点は、ほとんど解消されています。
外科矯正にも対応できる
骨格自体に問題がある歯列不正では、顎の骨格の形や大きさ、位置を外科手術で改善させなければなりませんが、手術前と手術後には矯正治療で歯並びを整える必要もあります。
外科手術が必要な矯正治療の手術前と手術後の矯正治療にも、ワイヤー矯正は対応しています。
矯正用アンカースクリューにも対応できる
矯正用アンカースクリューは、チタンで作られた小さな木ネジのような矯正器具です。
アンカースクリューを顎の骨に埋め込みますが、これだけでは歯を動かすことはできません。その他の矯正装置と組み合わせ、アンカースクリューからゴムをかけ、ゴムの縮む力を使って歯を動かします。
アンカースクリューと組み合わせる矯正装置にも、ワイヤー矯正は適しています。
保険診療にも対応している
外科手術が必要な顎変形症の矯正治療は、保険診療の適応を受けています。他にも、たくさんの歯が生まれつきない先天欠如など、条件さえ合えば保険診療の適応を受けた矯正治療はあります。
保険診療の矯正治療は、ワイヤー矯正しか認められていません。
治療の調整がしやすい
矯正治療は治療に取り掛かる前に治療計画を作成し、それに基づいて進めていきます。
ところが、計画通りに歯が移動するとは限りません。歯の動きが予定ほどではないということもありますし、終盤に差し掛かって上下の歯の間に少し隙間が残っているということもあります。
そのようなときでも、ワイヤー矯正ならその都度調整できますので、治療をスムーズに進められます。
ワイヤー矯正のデメリット
ワイヤー矯正は、装置が目立ちやすく、痛みや違和感があり、食事制限や丁寧な歯磨きが必要といったデメリットが挙げられます。
装置が目立つ
歯の表面にブラケットとワイヤーという矯正装置を装着します。この装置は、24時間ずっとつけたままになり目立ちます。
少しでも目立ちにくくしたい方には、歯の色に合わせたタイプや歯の裏側につけるタイプを選択する必要があります。
頬や唇などを傷つける可能性がある
歯の表面に矯正装置が取り付けられるため、矯正装置が頬や唇に当たると傷ができる可能性があります。
頬や唇などに当たって痛い場合は、ワックスという粘土状のカバーをつけて頬や唇などを保護します。
歯磨きがしにくい
ワイヤー矯正の矯正装置の形は、とても複雑です。
普通の歯でも歯と歯の間など磨きにくいところはあるのに、ワイヤー矯正の矯正装置をつけるとさらに歯が磨きにくくなります。
通院の頻度が多い
ワイヤー矯正のアーチワイヤーは次第に矯正力を失っていきますので、1〜2ヶ月おきに調整しなければなりません。アーチワイヤーの調整はご自身ではできませんので、歯科医院に通う必要があります。
マウスピースを矯正装置として使うアライナー矯正では、もっと通院間隔を長くできる場合もあり、通院の頻度が多いのもデメリットといえます。
ワイヤー矯正の種類
ワイヤー矯正は、歯の表側に矯正装置をつける方法からスタートしました。現在では、その他にもさまざまな矯正装置が開発されています。
表側矯正(唇側矯正)
ワイヤー矯正の基本とも言えるのが、表側矯正(唇側矯正)です。
歯の表側(唇側)に矯正装置を装着し、歯を動かしていきます。最もオーソドックスな方法で、矯正装置の装着も容易ですが、目立ちやすい点が難点です。
裏側矯正(舌側矯正)
裏側矯正(舌側矯正)は、歯の裏側(舌側)にブラケットとワイヤーを装着するワイヤー矯正です。
歯の裏側に矯正装置がつくので目立ちにくくなりますが、舌に当たるので慣れるまで話したり食べたりしにくいです。また、矯正装置を取り付けるのが表側矯正より難しいため、治療費も高くなります。
ハーフリンガル矯正
ハーフリンガル矯正は上顎のみ矯正装置を歯の裏側(舌側)に装着し、下顎は表側(唇側)につけるワイヤー矯正です。
比較的目立ちやすい上顎の矯正装置だけを高価な裏側矯正にし、下顎には治療費の低い表側矯正を選ぶことで、治療費を下げつつ、目立ちにくくするのが狙いです。
矯正装置の種類
ワイヤー矯正で使う矯正装置には、次のようなものがあります。
メタルブラケット
メタルブラケットは、金属製のブラケットです。耐久性が高く破損しにくいですが、目立ちます。
セラミックブラケット
セラミックブラケットは、セラミック製のブラケットです。
歯の色に似ているので目立ちにくく、強度もしっかりしていますが高価です。
ハイブリッドブラケット
ハイブリッドブラケットは、セラミックとプラスチックを混ぜ合わせて作られたブラケットです。
歯の色に近いので目立ちにくく、プラスチックブラケットより破損しにくいです。また、セラミックブラケットと比べるとコストも抑えられます。
プラスチックブラケット
プラスチックブラケットは、コンポジットレジンというプラスチックで作られたブラケットです。
歯の色に近いので目立ちにくく、ハイブリッドブラケットよりも安価です。その反面、欠けたり変色したりする可能性があり、プラークがつきやすい傾向もあります。
ジルコニアブラケット
ジルコニアブラケットは、ジルコニアというセラミックで作られたブラケットです。
ジルコニアは人工ダイヤモンドともよばれるセラミックで、とても硬く丈夫です。その上、プラークがつきにくく衛生的で、歯の色に似ているので目立ちにくいです。一方、加工が難しいのでコストはとても高いです。
セルフライゲーションブラケット
通常のブラケットはアーチワイヤーを装着したら、アーチワイヤーが外れないようにブラケットに結紮という作業をして固定します。
セルフライゲーションブラケットは結紮が必要なく、ワイヤーが自動的にブラケットに固定される仕組みが備わっているブラケットです。ワイヤーの交換にかかる時間を短縮できるほか、ワイヤーへの摩擦抵抗が少なく、歯の移動がよりスムーズになります。
ホワイトワイヤー
ホワイトワイヤーは、プラスチックなどでコーティングされたアーチワイヤーです。歯の色に近く、通常のアーチワイヤーより目立ちにくいのが利点です。
ワイヤー矯正の調整とメンテナンス
ワイヤー矯正治療中の矯正装置の調整とメンテナンスは、1〜2ヶ月に1回程度です。
調整は歯の移動を治療計画通りに進めるため、メンテナンスは矯正治療中の虫歯や歯周病予防、治療中の不快感の軽減、矯正装置の破損の予防などに大切です。
歯科医院への通院は手間ですが、必ず受けるようにします。
歯列矯正後の後戻り防止について
後戻りは、矯正治療後に整えられた歯並びが元に戻ろうとする現象です。矯正治療後、移動した歯が落ち着くまで1〜3年ほどかかると言われており、その間、後戻りはワイヤー矯正に限らず、どのような矯正治療でも起こりえます。
後戻りを防ぐために、矯正治療が終わったら保定装置という矯正装置を使っていただきます。保定装置は、歯に接着する固定式保定装置と、取り外しできる可撤式保定装置があります。
保定装置をつける期間は、矯正治療にかかった期間とほぼ同じくらいになることが多いです。
ワイヤー矯正の流れ
ワイヤー矯正の治療では、初診・検査、診断・治療計画、装置装着、調整・通院、保定といった流れで進められます。
- 1.
問診
最初は問診です。歯並びのどの点が気になっているのか、どのように治したいのかをまずお聞きします。
また、現在治療中の病気の有無、過去に治療を受けたことのある病気の有無、薬や食べ物のアレルギーの有無などもお尋ねします。 - 2.
検査
矯正治療の適応があると考えられた場合、検査を行います。
検査は、歯型をとって歯の模型作製、歯と顔の写真撮影、レントゲン写真撮影、レントゲン写真の分析などです。 - 3.
診断
検査結果をもとに、歯列不正に関しての診断を下します。
診断に基づき治療方針を計画し、同意をいただければ矯正装置の装着に進みます。 - 4.
歯間分離
ワイヤー矯正では、大臼歯という奥歯に既製品のバンドを装着します。
歯と歯の間が狭い場合、バンドを装着できないので、歯と歯の間に小さな輪ゴムを入れて歯と歯の間を広げる歯間分離を行います。 - 5.
歯のクリーニング
矯正装置を取り付ける前に、歯の汚れや歯石をきれいに取り除きます。
- 6.
バンドの装着
バンドを装着できるほど、歯と歯の間が広がったらバンドを大臼歯に装着します。このバンドは既製品なため、一度、歯に合わせます。
適したサイズのバンドにワイヤーが通るチューブという管を取り付けます。そして、歯にバンドを装着します。 - 7.
ブラケットの装着
ブラケットは、歯に接着剤をつけて装着します。
唇が当たらないように、アングルワイダーという口を広げる器具を唇にかけます。続いて、歯にエアーをかけて歯の表面を乾かします。そして、乾燥した歯の表面に接着剤を塗ってブラケットをつけます。
スーパーボンドという接着剤を使うことが多く、ブラケットをつけてから数分間、接着剤が固まるまで待ちます。 - 8.
アーチワイヤーの装着
ブラケットが歯にしっかり取り付けられたら、次はアーチワイヤーの装着です。
歯並びに合うよう、アーチワイヤーを調整してからブラケットにある溝にアーチワイヤーをはめ込みます。そして、アーチワイヤーが外れないよう、ブラケットひとつひとつに細いワイヤーやゴムを使って固定します。 - 9.
調整
矯正装置を取り付けたのちは、1ヶ月程度の間隔でアーチワイヤーの調整や交換を行います。調整のために受診していただいたとき、歯磨きのチェック、歯のクリーニング、虫歯のチェックなども行います。
- 10.
ゴムかけ
矯正治療を始めてから3〜6ヶ月ほど経ったら、上顎と下顎の間に顎間ゴムというゴムをかけます。このゴムの働きで、上顎と下顎の歯の噛み合わせを近づけます。
また、小さな輪ゴムが連続してつながったチェーンのような形をしたパワーチェーンというゴムをかけることもあります。 - 11.
微調整
矯正治療の終わりが見えてくると、歯並びや噛み合わせの微調整を行います。
- 12.
撤去
歯並びや噛み合わせが理想的な状態に整ったら、矯正装置を取り外します。
- 13.
保定
矯正治療を終えた後の歯並びは後戻りを起こして、再び悪くなる可能性があります。そこで後戻りを防ぐため、保定という段階に移ります。
よくある質問
多くは2〜3年ほどですが、歯や歯並びの状態によって差があります。
金属製やセラミック製のパーツが変色することはありませんが、プラスチック製のパーツやゴムは濃い色の食べ物や飲み物で変色することがあります。
変色したパーツを元の色に戻すことはできないため、新しいものに取り替えるしか方法がありません。
ワックスという粘土のようなものをお渡ししますので、それを頬や舌のあたってるところにつけてください。
矯正装置が外れてしまったら、早めにご相談ご連絡ください。
頬や唇などに外れた矯正装置が当たる場合は、受診までの間はワックスなどを使って、頬や唇を保護してください。
歯を並べるために必要なスペースがない場合、抜歯して歯を減らしてスペースを確保します。第一小臼歯という4番目の歯、もしくは第二小臼歯という5番目の歯を抜歯することが多いです。
歯をきれいに並べようとしてもスペースが足りない、けれど抜歯するほどの不足分ではない、そのような場合に歯と歯の間の面のエナメル質を0.2〜0.3㎜ほどを削り取ることがあります。
削る量は1面あたり0.2〜0.3㎜ほどであっても、削る歯の数を増やせば数㎜の隙間が得られます。
被せ物や詰め物が入っていてもワイヤー矯正はできます。しかし、被せ物や詰め物の形や材質によっては、ブラケットが取れやすいこともあります。
ブリッジが入っている方は、そのままでは歯を動かすことはできません。人工歯部分を取り外して、歯の位置を動かしやすくして歯並びを整えます。
インプラントは動かすことはできません。
インプラントが入っている方は、インプラント以外の歯だけ歯並びを整えるか、もしくは歯並び全体を整えたい場合は、インプラントを一度撤去する必要があります。
治療概要
治療方法 | |
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治療の説明 | ワイヤー矯正は、歯につけたブラケットとアーチワイヤーで歯を移動させる矯正治療法です。 |
治療の副作用(リスク) |
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術後の制限事項 | 特にありません |